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児童養護施設や養育里親家庭で暮らしている子供達にとって、18歳はとてつもなく大きな壁に直面する年齢です。
まるで、未熟な知識とスキル、1ヶ月分の食料だけ持って、大海原に出て行くヨットのような旅立ちの時期です。今回は私の養育里親としてのごく限られた経験からではありますが、思うことをお伝えします。制度や現状の説明が不十分な点もありますが、ご理解いただけるとありがたいです。
【児童福祉法の児童とは】
多くの高校3年生は、どの学校に進学するのか、どの企業に就職するのかで悩むことでしょう。しかし、それ以前に、実家という寄る辺を持たない子達は居場所がないという厳しい現実に向き合います。
以前、養護施設で暮らす小学低学年の子がとても堅い表情でポツンともらした言葉を忘れません。「18歳になったら今の施設を出される。」と。こんな小さなうちから、そこまで考えているのかと、苦しくなりました。
児童福祉法では児童養護の期間は18歳未満。養護施設や養育里親家庭は就学のための施設なので、原則として就職後は住み続けることはできません。その時点で実家に戻る選択肢を持たない子ども達は自立が必要です。
児童福祉法が改正され、20歳まで養護施設や里親の元で暮らすことができる措置延長の制度はあるものの、実際に活用されるケースはまだ一部だと思います。延長の条件は進学なので、大学や専門学校の学費をどこから捻出するかも大きな問題です。奨学金を借りる方法もありますが、将来にわたってハイリスクを負うことに。
NPO法人ブリッジフォースマイルの2018年の調査では、高校卒業後での就職率は
全国 18.3%
児童養護施設出身 63.3%
進学しない場合、住む場所の確保のために、社員寮が大きな助けとなりますが、就職先の選択幅は極端に狭くなります。以前我が家でお預かりした里子さんは、進路について自分でよく考えて、高校卒業後に寮のある企業に就職しました。「そのうち自分でアパートを借りて、夢の一人暮らしを実現したい。」と頑張って働いています。
その子のようにがんばれる子もいれば、仕事が続かずに転々として、困窮してしまう子もいます。仕事が続かない理由も様々でしょうが、本人の頑張りではカバー仕切れないハンデがたくさんあると思います。
【法律、経済、生活、人間関係の壁】
民法では、未成年(20歳未満)は契約ごとは自分でできないため、携帯電話などは大人が代わりに契約したり、親権者の確認が必要になります。18歳で養育里親の元を離れれば、スマホを持つのも一苦労。未成年はたとえ収入があってもひとりでは契約できません。実親や成人の兄姉に頼れない場合、どうするのか?働いて自由を手に入れるはずが、18歳以上20歳未満の厚い壁が行く手を阻みます。
部屋を借りる場合の保証人も大きな壁です。施設長などが、保険制度を使って保証人となれる「身元保証人確保対策事業」も、すべての子供をカバーできるわけではありません。
自立のための支度金もいくらかは支給されますが、すぐに使ってしまう子も多いようです。生活のための金銭感覚を身につけるのも大変です。我が家では高校生の里子さんには、税金、社会保険料、公共料金、通信費、食費、医療費、などの出費をまとめて表にして渡し、お給料の使い道がイメージができるようにしています。
その他、生活にかかわる細かなところで、経験不足によるハンデが一気に押し寄せます。施設や学校で接する大人は、当然お仕事モードなので、日常生活モードとは違うでしょう。子供が大人達の日常家庭生活の様子を見聞きして、自然に身につけることって実はたくさんあります。何気ない情報の積み重ねはとても大切です。その機会が少ないことが、後の社会生活に大きく影響するのです。
以前、我が家に泊まりに来た小学生が、朝の出勤前に夫がゴミ出しに行ったりして忙しく支度しているのを見て、「お仕事ってたいへんなんだね。」としみじみつぶやいてました。家から仕事に出かける大人を初めて見た、ひと言でした。こういった日常生活の臨場感が少ないのは、彼らの責任ではないと思いますが、世の中に出た時に、「社会常識が無い」と評価されてしまうのが、残念です。
今まで、施設、学校、病院、里親家庭など、本人の事情を分かって配慮してくれる大人に囲まれ守られていた環境が、就職後はがらりと変わります。施設の子、里子と呼ばれる事から解放される反面、社会の常識という荒波にさらされます。
荒波をかぶったときに、相談できる大人がすぐ近くにいないのも大変です。いったん外に出ると、施設の職員や里親のところを訪ねるのも、簡単ではなくなるのでしょう。相談に行けば迷惑をかけるという遠慮があったり、自分なんか心配してくれる人はいないと思い込んでいたり…という子達も多いと感じます。
【大人としてできること】
社会に出て、実家という寄る辺を持たない子達に、どのように寄り添う事ができるのか?養育里親としての大きな課題です。人生の航海の為の知識やスキルをできるだけ持たせてあげたいし、海が荒れたら寄れる港でありたいけれど、まだまだ私は実力不足だと感じることもしょっちゅうあります。せめて、方向に迷ったときのみちしるべとして灯台や星がある様に、子供達のこころの片隅に存在できたらいいなと思います。
少しでも、子供達の苦労を知っていただきたく、つづりました。お付き合いくださり、ありがとうございます。